皆さんお元気ですか? 今日は栄養士さんの方から薬の話をしてほしいという要望がありました。 まず、薬の話の前にちょっと思い出話をさせてもらいます。
山梨医科大学が、開講する前に、ぼくは、甲府市内の病院に3カ月ほど勤務していたことがあります。その当時、同じ病院に、ぼくの同じ出身大学の20年以上の先輩が勤務されていました。 この先輩が恐ろしく博識な頭のいい方で、国内外を問わず、絵画、音楽、陶器から他人のうわさ話(博識と言っていいのかはわかりませんが)まで知らないことがないといった状態で、さらには無類の話好きで話し出すと何時間も止まらないといった様子でした。 僕などは、忙しいときはできるだけ顔をあわさないように心がけておりました。 そんな先生の薬の知識というと生半可ではありませんでした。 どんな薬にも作用の十分でないところもあり、副作用もあります。それらを補うべく、生理学、生化学、薬理学、内科学とあらゆる知識と情報を詰め込んで薬の処方が完成されるわけです。 従って、その先生の処方箋には、膀胱炎で熱がでた程度でも10種以上の薬がズラーと並ぶことになります。 どの薬も確固たる学問的裏付けがあって処方されていますので、誰も文句は付けられなかったわけです。 ただ、当時僕は”患者さんは本当に全部飲んでいるのかなあ?”という疑問をもっていました。 その先輩の先生は、金儲け主義の算術で多数の薬を出したわけではありません(処方箋の量と勤務医の給料は何の関係もありませんから)。 このように、良心的で、勉強好きで患者思いの医師ほど、ついつい薬の量が多くなってしまうもののようです。
さて15年ほどたって、現在の私ですが、元来の不勉強がたたってか驚くほど少ない種類の薬しか使っていません。 僕の使っている薬は、
1)古くからある薬(安全性が高い)
2)新しくて作用の新しい薬
3)患者さんの人生に重大な不利益を起こす糖尿病の合併症を予防する薬
だけです。
どんな効力の高い薬でも患者さんが飲んでくれないと効き目はありません。 この飲み続ける(英語ではコンプライアンスといいます。)事こそ大事なのです。
薬は強制されて飲んだり脅かされて飲んだりするものではないはずです。できるだけ皆さんに必要性を理解して飲んでもらいたいと思います。情報開示の世の中の流れに従って、皆さんに飲んでもらっている薬を一つづつ紹介していきましょう。
オイグルコン(1.25mgと2.5mg) 1.25mgは円形で半分に切れ目がついています。2.5mgは小判型で裏面にBM300Eg、BM302 Egという記号が入っています。 この薬はスルフォニル尿素剤に属する薬で、インスリンを必要としない程度の糖尿病の患者さん用の薬です。
体の中で5時間ほどで半分になります。 現在市販されている薬の中で一番強い飲み薬といえます。ですから、この薬を飲んでいる方の場合、これ以上血糖が高くなるとインスリンに変える以外にいい手段がなくなります。 力価が強いですから低血糖にも十分気を付けて下さい。 また後で述べるグリミクロンやラスチノンにおいても同様ですが、アルコールに対して耐性が弱くなります。その他にアルコールと一緒に飲むと低血糖を起こしやすくなります。 その他に、リウマチの薬のフェニールブタゾンや、サリチルサン酸と一緒に飲むと薬の効きが強くなりすぎて低血糖を起こしやすくなりますから、気を付けて下さい。 ほかの病院で、薬をもらった場合は、できるだけその薬を持参してみせるようにしてもらった方がいいでしょう。 このことはほかの病院で薬をもらう場合も同じで、こちらでもらっている薬を知らせた方がいいと言うことになります。
グリミクロン(40mg)近頃は薬のシートの表にカタカナでグリミクロンと赤い字で書いてありますから、すぐわかるでしょう。 教科書的には、オイグルコンの40分の1の強さと言うことになっていますが、実際にはもっと力は強いようです。この薬の特徴は作用時間がほかの薬に比べて長いことにあります。これは、いい点でもありますが、一面では低血糖が夕方に起こりやすいと言うことになり、気づくのが遅れると、特に老人の方では、重症の低血糖になりやすいと言うことになります。
ラスチノン 薄いグリーンのシートには一ものすごく大きな錠剤で、真ん中に割れ目が入っています。 教科書的には、オイグルコンの400分のIの強さと言うことになっていますが、実際にはもっと強いようです。 この薬で、血糖がコントロールできるぐらいですと、本当は、薬は飲まなくていい位の糖尿病だと思われるのですが、なぜかちょっとでも薬を飲んでいないと食事が乱れて来る人が多いようです。 この薬ですと、低血糖の心配はありません。 ごく希に、低血糖になったと訴えるか他がいるのですが、個人差もあるのでしょうから一応気を付けて下さい。
グルコバイ 50mg、グルコバイ 100mg、
ベイスン 0.2mg、 ベイスン 0.3mg
グルコバイは50mgが緑のシートに入っていて、裏にバイエルBYG50と書いてあります。
グルコバイ100mgは金色のシートに入っていて、裏にバイエルBYG100と書いてあります。
ベイスン0.2mgはピンクのシートに入っています。 これらの薬は、ほとんど同じ作用の薬です。腸管で、糖分が吸収されるのを防ぎます。 だから、糖分が腸管に届く前にクスリが先に届いていなくてはいけません。必ず、食事の前に飲むことが大切です。 副作用としては、おならが出たり、ガスで腹痛がしたりすることがあります。 これは、体が吸収しなかった糖分が、腸管の菌に回って栄養になり、菌が異常に元気になりガスを出したりするために起きてきます。 糖分の吸収の関係で、太った方や、肝臓の悪いヒトに処方することが多くなっています。
ノスカール (100mg) やや薄いブルーのシートに入っています。やや大型の小判型をしたクスリです。 実は僕もこのクスリは実験に用いています。実験段階では、目を見張るほど作用の強いクスリです。 身体の中にはインスリンというホルモンがあります。 オイグルコンやグリミクロンはこのインスリンが膵臓から良く出るようにしてくれるクスリですが、ノスカールは、インスリンがからだの隅々でよく効いてくれるようにするクスリです。 まだ発売されてから日が浅いのではっきりしませんが、オイグルコンが効かなくなっているほど重い糖尿病のヒトでは、残念ながらあまり効果がありません。
キネダック 糖尿病の三大合併症の中に神経障害があります。これは、主に、下肢のしびれなどが全面に出てきます。 この神経障害の原因は分かっていません。 神経にいく血管が細くなったり、詰まったりして起きるという説があります。また、神経の中にソルビトールというものがたまって起きるという説を採る人がいます。 このソルビトールを身体の細胞の中でつくるのがアルドースリダクターゼという酵素です。キネダックはこの酵素の働きを押さえることによって神経障害を予防できると考えられています。 非常におもしろいクスリです。作用のもっと強い同系統のクスリも発売されてくるでしょう。 同様に、腎臓や、白内障にも効く可能性があるのですがはっきりはしません。
尿が赤くなる欠点があるのでいやがる人もいますが、身体に害はありません。
メチコバール 真っ赤なシートにはいった丸いクスリです。裏にメチコバールと印刷してあります。神経障害に対して用いるビタミン剤です。 神経障害に対しての特効薬はありません。 やはり、血糖を低く押さえて、ヘモグロビンA1Cを6台に押さえるといった地道な努力を重ねるしかありません。
まだまだ糖尿病のクスリはあるのですが、今日はこのあたりで終わります。 最後に強調しておかなければならないことは、頭でクスリを理解しても病気は治らないということです。 糖尿病を治していくのは、食事と運動をしっかりやってそのうえで、薬を飲んだとき初めて始まるわけです。 |