自衛隊のイラク派遣、北朝鮮の拉致問題といろいろと心配な事が多い毎日ですね。今年もインフルエンザが大流行ですね。僕の患者さんも何人も大学に担ぎ込まれました。 これから、寒さは次第に緩んでくるでしょうが、気温の変動が激しくなりますのでより一層体調に十分気をつけて自己管理に努めてください。
さて、今日は糖尿病とは切っても切れない関係にある動脈硬化の話です。その内容はまさにタイトルにある通りです。そう! 動脈硬化は見えるのです。検査方法の進歩によって簡単に動脈硬化が分かる方法が開発されてきました。そのうちの2つについてお話ししましょう。それは①頸動脈エコーと②腎動脈血流測定です。二つとも超音波検査です。
①頸動脈エコー
これは7.5Mhzの周波数の超音波を首のところに当てて首の動脈(総勁動脈、内径動脈、外頸動脈)の壁の厚さを測ります。なんと、0.1mmの精度を持って測る事ができます。首の動脈も年を取りますから他の動脈と同じように年を取ると動脈硬化で(a)壁が厚くなったり(b)表面がささくれ立って血の固まり(血栓)がこびり付いたりしてきます。ちょうど水道管のさびと同じです。 首の血管の動脈硬化が怖いのは、その先に頭があるからです。つまり血栓が飛ぶと頭につまって脳梗塞を起こす可能性が高いという事なのです。

(a): ではどのくらいのスピードで厚くなるのでしょうか? それはなんと正常の人で年間に0.01mm,つまり10年で0.1mmとなります。 大阪大学の先生方の研究によると、だいたい50歳ぐらいの人で。0.8mm程度になります。 簡便には1mmを超えると動脈硬化と診断されます。“お肌年齢”という言葉がありますが、私たち医者が気にするのは“血管年齢”です。 人によっては10歳も20歳も血管年齢が実際の年齢よりも年を取っている人がいます。検査の後で結果を患者さんに説明するときにこちらが言葉に詰まってしまう程老化の進んでいる場合もあるのです。
ここで疑い深い(頭の回転のいい?)方は『0.数ミリ血管が細くなっても血液は流れるから病気とは関係ないだろう』と思われた事でしょう。それは間違いです。 厚くなって弾力性を失い固くなった血管は土管のように働いて心臓の作り出すものすごい圧力=血圧を頭の細胞に直接伝えるようになるのです。これこそ脳動脈硬化でしょう!
(b): では“ささくれだつ”とはどういう事なのでしょうか?
これはなせ血管が厚くなるのかいう事をはじめに説明しなくてはわかりません。
動脈硬化が起きると血管の壁にマクロファージという血液の細胞が集まってきます。このマクロファージという細胞はテロや犯罪の現場に駆けつける警察の特殊部隊みたいな細胞です。活性酸素や、分解酵素という強力な武器を持っていて無法者の異物や細菌などを片っ端から捕まえて自分の中に取り込んでやっつけてくれます。このマクロファージは動脈硬化の初期から駆けつけてくれていわば駐留軍としてそこに長く留まってくれます。 一見すると治安もよくていい事だらけのようなのですが、動脈硬化もなかなか強力な武器で反撃を試みてきます。 たとえば糖尿病や腎臓疾患の患者さんが高コレステロール血症を合併すると酸化コレステロールというものが血中に増えます。この酸化コレステロールはマクロファージの中に取り込まれるのですが、なかなか消化されずに逆にマクロファージを内側から壊してしまいます。マクロファージは自分が壊れるときに活性酸素や、分解酵素を周りに撒き散らします。 こうなると駐留軍が市民に向かって発砲するようなもので周りは炎症だらけになり荒れ果ててきます。 こうやって動脈の壁が厚くなった状態が動脈硬化です。 厚くなった動脈は次第に内部が崩壊して血液の流れに逆らえずやがて飛び散ってしまいます。(飛び散った固まりがどこにつまるかは当然お分かりですね。そうです頸動脈の先には頭があるのです。)そうすると元来はすべすべして滑らかなはずの血管の壁が“かさかさ”になってきます。 この“かさかさ”に血液の中の血小板がくっついて固まると血栓です。 血栓の中には大きいのも小さいのもあっていつかは剥がれていきます。大きいのが剥がれると大きな梗塞、小さいのが剥がれると小さな梗塞で、もしかしたら軽い頭痛ぐらいしか症状を起こさない事もあるでしょう。このことを下の図に示しました。 この様子を頸動脈エコーでは手に取るようにみる事ができます。僕が日常の診療でこの頸動脈エコーの異常を発見するのはやはり糖尿病性腎症の腎不全期の患者さんです。驚く程高率にこの変化を見つける事ができます。あまり脅かしたくはないのですが、同じ血管の変化は心臓の周りの動脈にも見る事ができます。
しかし悲観してはいけません。もし早めに分かればこれを予防する方法もあります。昔からの古い薬であるアスピリン(皆さんご存知ですね)を少量毎日飲めば梗塞の発生を予防できる可能性が高くなります。ですから大字な事は(1)まず糖尿病にならないこと。なったら(2)重くしないこと。(3)高血圧や高コレステロール血症を合併しないように気をつけること。そして、もしそれらに失敗したら(4)できるだけ早く動脈硬化を見つけ出す事です。
頸動脈エコーは厚生連健康管理センターでもやっています。 時間のある人は大学で、時間のない人は厚生連健康管理センターで検査を受けてください。費用は3割が自己負担の場合は検査料だけで約1000円(2007年現在)です。 高いですか?
②腎動脈血流測定
もしあなたの腎臓が知らない間に血管が詰まって機能廃絶していたらどうしますか?そんな馬鹿な事があるはずないと思いますか?でもあるのです。
下にそんな実例をお見せします。赤く見えているのが上向きの血流で、青く見えているのが下向きの血流です。 画面に向かって左側にはほんの少ししか血液が流れていませんね。これでは腎臓の機能がなくても当然です。残った片方の腎臓が働いて日常生活に支障はありませんが、予備能力が落ちている事にはかわりありません。『どうしてこんなことが起きるか?』って、もう答えは言わなくても分かりますね。
近頃蛋白尿をはじめに起こさない糖尿病性腎症のある事も報告されるようになってきました。また糖尿病そっくりの腎臓病理所見を持ちながら、高血圧とタバコで起こる腎障害のある事も報告されています。上にお示しした動脈硬化による血管の障害と同じように知らない間に健康を害するものが世の中にはいっぱいです。

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