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原口内科・腎クリニック

  療養一口メモ ~糖尿病~

 
騙しのテクニック

 皆さんお元気ですか?
 今年、長男が大学に入りやっと家族共々が受験地獄から解放されました。仕事ばかりしている親の姿を見て育たせいか、医者になる気はなかったらしく、志望校の選択に関しては一抹の寂しさを覚えました。
 医者をやっていて一番嬉しい事は患者さんから“お陰で、元気になりました”と言われる事です。それと反対に、一番悲しい瞬間は全力を尽くしてもチカラ及ばず患者さんが亡くなられる時です。ところで、医者にとって一番情けない事はなにか知っていますか?それはいろいろ手を尽くし、考えを巡らして、看護婦さんや栄養士さんも協力してやっと血糖のコントロールをよくした患者さんから“実は、○○さんに薦められて民間療法の●●水を飲んでいるのです。そのお陰です。”と言われる事でしょう。
 僕の診ている患者さんの中にも民間療法に何万円も注ぎ込んで後悔している人がいます。折角いいコントロールになっているのに、民間療法ですっかり体調を狂わせてしまった人もいます。輸入の漢方薬で、薬害になり生死の境をさまよった人もいます。話題の酸性水だけで足の壊疽を治そうと試みて切断するまで悪化させた人もいます。巷ではそんな話はあまり聞かないでしょう!患者さんは自分の失敗談はあまり話したがらないものなのです。
 患者さんの深層心理の中には、何から何まで、医者の言う通りにはしたくない。自分の身体は自分で治したいという欲求があります。どうせ飲むなら、薬も自分で探したいと考える事もむべなるかなです。そこにつけ込む悪徳業者が後を絶ちません。患者さんも一度お金を出してしまうと、自分の損は認めたくありませんから食事も気を付けて、お酒も控えるようです。結果として血糖値が下がりますから一時的にはいいのでしょうが、次に糖尿病が悪化した時には、もはや医者の言う事も聞かず、唯我独尊?と言った風です。自己満足している間はいいのですが、人にも薦めるようになると最悪です。
 さて、どうして皆さんは偽の薬に騙されるのでしょうか?始めから一本何万円もする瓶を見せられて“これは糖尿病に聞くから買いましょう”と言われても買う人はいませんね。騙しには騙しの磨きあげた技があります。では、騙しのテクニック、手順について解説しましょう。
 まず、

1) 誰でも納得する事を言って安心させます。次に、皆の注意を引きます。
 「糖尿病は恐ろしい病気です。目が見えなくなったり、年間4,000人も糖尿病で透析になっています。」
 「ここで、みなさんにぜひお知らせしたいよい治療薬が見つかりました。」
 「たった、毎日一杯の○○を飲むだけであっという間に糖尿病が良くなるのです。」
 ちょっと、みなさんの興味を引くでしょう。病気の話と、得になる話には人は弱いものです。更に、「痩せにくい体質の私も・・・・・」などと続くと、つい「自分の事だ!」と身を乗り出してしまいます。
 また、プライドの高い人も、騙されやすいようです。自分は決して騙されない、最後まで宣伝を読んで、または、聞いて間違えを探してやろうと考えてしまうのでしょう。でも間違いを探し出せない時には、自分は決して騙されないという仮定から始まっていますから、後戻りできなくなっています。

2) 少しだけ、科学的な事を言って患者さんをけむに巻きます。
 ちょっとインターネットを覗いて糖尿病に効くという民間療法の宣伝を書き抜いてみましょう。
 「太古の昔から地球上に・・・・・・(クロレラの宣伝)」「海は生命の源です。赤ちゃんが入っている羊水の組成も海のミネラル分に近く・・・・・(天然水)」「・・・・・この耐熱菌は免疫力を強め・・・・」「・・・・クエン酸を大量に含み、このクエン酸にはインスリンの作用を助け・・・・・菌を殺す作用があり・・・・(黒酢)」「・・・・抗腫瘍作用、免疫活性化作用・・・・・βDグルカンを含み・・・・(アガリスク)」「女王蜂の寿命は2年で、働き蜂の寿命は2ヵ月です。・・・・(ローヤルゼリー)」「・・・・ビタミンEは白米の5倍、ビタミンB1は2〜3倍・・・(玄米)」「東南アジア原産の(ウコン)・・・・・強力な抗酸化作用を持つテトラヒドロクルクミンが糖尿病の合併症を抑えるものとみて研究・・・」
 どれも間違った事は言っていません。何となく神秘的で、科学的な感じがします。でも、地球上に昔から生きていたと言う事と糖尿病が治る事と何の関係があるのでしょうか?海の水を飲んだら糖尿病が治るのでしょうか? 殺菌作用と糖尿病を治す事が何の関係があるのでしょうか? βDグルカンに抗腫瘍作用、免疫活性化作用があるのは確かなのでしょうが、肺真菌症(命を落とす事のある)もβDグルカンを作って血液中に出すと言う事もご存知でしょうか?
 アガリスクの持っている多糖類は他の茸の持っている多糖類と違うのでしょうか? 働き蜂の寿命と糖尿病の皆さんの寿命に何の関係があるのでしょうか? 美空ひばりさんが間違った玄米ダイエットで亡くなられた事をみなさんお忘れですか? ウコンの持つ抗酸化作用が糖尿病の合併症を治す可能性があるとしても糖尿病自体を治す力はあるのでしょうか?

3) いろいろな科学的な商品説明にはくをつける○○医学博士が登場します。
 法学博士、理学博士いろいろ有る博士の中で、一番取りやすい博士号が医学博士だといわれています。博士号は研究に対して与えられるもので、どれだけ患者さんの事をよく考えているかや、人格が高潔であるか、ということに対して与えられるものではありません。医学博士の僕が言っているのだから信じてもらえるでしょうか? 医学博士にもいろいろの人がいて、いろいろの意見を持っているのです。新聞の折り込み広告に登場する○○医学博士に皆さんは会った事がありますか? 新聞の折り込み広告に登場する○○医学博士が学会で折り込み広告の商品についてシンポジウムしたり、多数例の臨床報告をしているのを僕は聞いたことがありません。なぜ、信じる気になったのか? それは、もともと信じたいと思っているから権威に頼るのです。

4) そして、最後に驚異の体験談が載っています。
 アトピーも治った、喘息も治った、腰の痛みも、膝の痛みもなおった、糖尿病も治った、とにかく何でも治る驚異の体験談が載っています。ひとりひとり載っているとまさかと思うのですが、馬鹿馬鹿しい話でも何人も出演すると何となく正しいのかなと思ってしまいます。白髪もなお津と書いてあったので、僕も試してみたくなったほどです。
 でも糖尿病が治る事がそんなに珍しい事でしょうか? とんでもない! 食事療法で良くなった人も、医者が使う経口糖尿病薬や、運動療法で血圧が下がった人も皆さんの周りには何百人もいます。医者が使う経口糖尿病薬は、何百、何千人の人々に使われてはっきりした効果があったもののみが新薬として認められるのです。更に、発売後に何十万、何百万人にも飲まれて副作用調査も行われます。これに、比較して民間療法薬は新薬として認められない以上、はっきりした効果を持ってないと言っても過言ではありません。いろいろな民間療法の中には漢方でいうところの上薬(飲み続けても副作用のない予防的な保険薬)は、含まれているかもしれません。しかし、この漢方で言うとこところの上薬は皆さんの期待するような特効薬ではあり得ません。
 最後に、近頃都会でまことしやかに囁かれている話です。大手の薬局チェーン店の中には親切に患者さんの話を聞きながら処方と違う薬を売りつける薬剤師があります。これは利率の高い処方以外の薬を売るようにノルマが課せられているからなのだそうです。あちらこちらに、患者さんを食い物にする仕組みがあります。御用心、御用心。
 医者にも、上医(なにも言わなくても患者さんが従ってくれる医者)と下医(脅かして患者さんを従わせようとする医者)がいるように患者さんにも上患(自分で正しい方向を探し出す患者さん)と下患(脅かしても、教えても間違った方向に進む患者さん)がいるように僕は思います。皆さんは、上患と下患のどちらですか?

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