原口クリニックは山梨県甲斐市の 内科 糖尿病 透析 腎臓内科 甲状腺 巻き爪 の専門病院です。

原口内科・腎クリニック

  療養一口メモ ~糖尿病~ (第6号 平成9年6月)

 
糖尿病と運動療法

 昨年、厚生省から、インスリンを必要としないインスリン非依存型糖尿病を「生活習慣病」と呼ぶことが提唱されました。つまり、インスリン非依存型糖尿病が必要以上の過食と、運動不足からくる病気だというのです。若い時期から生活習慣に気をつけて将来の糖尿病の発生を抑えようというのが真意のようです。しかし、これもずいぶん乱暴な意見です。仕事柄どうしても食事が不規則になる人も大勢いますし、欧米のように昼間から運動を楽しむ時間的余裕や、施設が日本で完備しているわけではありません。しかし、人がなんと言おうと環境のせいにして運動を怠ると損をするのは、患者さん自身です。
そこで、今回は糖尿病の治療の大きな柱である運動療法についてお話しします。運動療法には有酸素運動とレジスタンストレーニングの2種類があります。

1 有酸素運動

運動療法が、糖尿病によい影響を及ぼすことは、紀元前600年ごろのインドの本にすでに記載されています。運動であればどんな運動でも良いというわけではありません。糖尿病では酸素をよく取り込んで、細胞の中の、ミトコンドリアの働きをよくする有酸素運動が大切です。この有酸素運動は軽度から中等度の運動を、20〜30分以上続けることによって可能になります。
運動療法の目的はまず、血糖を下げることです。運動を始めると、まず筋肉の中のグリコーゲン(貯蔵されている糖分です)が使われます。運動は十分以上持続すると、血液の中の糖分が使われて、血糖値が下がります。さらに運動を続けると脂肪細胞から、脂肪酸が出てきてこれが使われます。だから、運動を一生懸命にすると血糖が下がり、肥満も解消されるわけです。しかし、この良い効果も3日ほどしか持続しません。ですから、週に一回だけ一生懸命にゴルフをしても、なかなか効果が現れません。つまり、いつでも、何処でも、毎日でもできる運動がいいと言うことになります。
具体的には、初心者では、“ちょっと運動になったかな”という程度の運動を、慣れた方では、マイペースのジョギング(笑顔で話をできる程度)を少なくとも2日に1回は、続けることがいいと思われます。しかし、いざ始めようとなると、準備運動はどうやるのか、どんな歩き方または、走り方がいいのかわからないことが出てきます。そんなときには、厚生連にきて運動指導士と相談して下さい。
ここで糖尿病患者さんが運動療法を始めるときに注意することを、いくつか挙げておきましょう。

注意点
 ⑴決して運動の強度を急に上げないで下さい。ジョギングをして、着地の時に膝や、かかとには、体重の3倍の負荷ががかります。特に膝を痛めたことのある人や、肥満のある人は歩くことから始めてください。運動をして膝を痛めると、運動療法の意欲がなくなり、楽しくなくなります。
 ⑵眼底出血などの、重症の糖尿病性網膜症のある方は、運動によって出血が誘発されることがあります。医師と相談してから行ってください。3、4ヶ月に一度は検査を受ける必要があります。
 ⑶外来受診時に毎回施行している尿検査で尿蛋白が3+以上の患者さんは運動は控えてください。腎臓にまわる血液が減って、腎臓の機能低下をきたすことがあります。
 ⑷インスリンや、経口薬を使っており低血糖の恐れのある方は、運動は食後に行ってください。食前の長時間の運動は高齢者では脳梗塞の原因となっています。
 ⑸糖尿病患者さんでは、狭心症などの心臓病が隠れていることがあります。これは、心臓の痛みを伝える神経が麻痺しているために起きてきます。運動をしているうちに普通の人なら心臓の痛みを   感じて運動を手加減するのに、糖尿病患者さんは痛みがわからずにどんどんやってしまうのです。病院で運動前後の心電図検査を受けてください。
 ⑹運動の強さの目安として脈をはかることが一般に使われています。例えば、60才の方の場合、中等度の運動では、脈が110程度に上がると思われています。しかし、糖尿病患者さんでは心臓を   支配する神経が麻痺しているために、脈が上がらないことがあります。この場合も病院で運動前後の心電図検査を受けてから本格的に始めてください。

2 レジスタンストレーニング

 一般的には、糖尿病治療には、筋力トレーニングは不向きであると言われてきました。ところが、最近腕立て伏せや、腹筋運動のみならずダンベル体操などが次第に広がりつつあります。今まで主流であった有酸素運動とは違ったこれらの運動は、それ自身では、血糖を下げる働きは強くありません。そのため、糖尿病学会でもはっきりとした評価を得られてはいません。しかし、レジスタンストレーニングには、しっかりとした筋肉を身体につけて糖の利用を高め筋肉のグリコーゲン量を増やすという作用があります。ジョギングなどと異なり家の中で(テレビを見ながらでも)どんな天気の日にもできます。身体の中には約430種類の筋肉があります。そして、各々の筋力トレーニングには目的とする筋肉があります。したがってその種類も多く、強度も様々です。ジョギングのように“笑顔で話をできる程度”と言った簡単な目安もありません。そこで、以下に記した幾つかの注意を守ってください。

注意点
 ⑴筋力は各人で違いがあります。ですから、運動に必要な負荷も違いがあります。また、五十肩などは、トレーニングの妨げとなります。まずは運動指導士と綿密な相談をしてから始めることが肝心です。
 ⑵先に話したように血糖を下げる働きの強い運動ではありませんから、有酸素運動と組み合わせて行う必要がありそうです。
 ⑶強すぎる筋力トレーニングは血圧を上げます。高血圧や眼底出血のある方は、注意してください。
 ⑷最後に軽い筋力トレーニングを長時間くり返しますと、有酸素運動をすることと同様の効果があると思われます。



 運動療法の一番の基本は、楽しくコツコツ長続きさせることです。いろいろな決まりや、注意を守って皆さんも始めて見ませんか?気持ちの良い汗は、皆さんが服用する薬よりも効き目があるかもしれません。

▲このページのTOPへ

◀◀前の記事へ   次の記事へ▶▶