鈴木 敏代(糖尿病歴 38年)
よい治療やすばらしいアドバイスを受けても、私達患者自身が毎日の生活の中で、積極的にコントロールに立ち向かっていかないと、結局は自分が苦しむことになります。
「糖尿病は患者教育が大切な病気」と言われています。私たち患者の年齢や生活、能力を考慮に入れて、先生方は糖尿病についていろいろと教えてくださいます。糖尿病をいかにコントロールすればいいか、合併症がいかにこわいか、適切な食事と運動の程度や量はこれこれしかじか、などなど細かく教えていただきます。ところが、先生方の言葉を受ける患者側の理解度には、かなり個人差があるようです。
先日、糖尿病を発症してまだ日の浅い人たちと、お話をする機会がありました。年齢も育った環境も、現在の境遇も、あまり大差ない人たちなのですが、糖尿病という病気に対する取り組み方や意識に、歴然と違いがみられました。
必死で病気に立ち向かっていこうと言う気持ちの人と、食事だけ気をつけていればいいんだと軽く考えている人と、大きく二つに分かれました。
数年前のことです。すでに腎臓に合併症が出てしまった二人と話をしたことがあります。
1人は、「このままの状態では人工透析は避けられないだろう」と先生からいわれた一言で、意を決して糖尿病の勉強を一から始めました。食事、運動、水分の取り方、ストレス発散法などに懸命に取り組んで、今のところ合併症の進行を抑えることに成功しています。彼女の努力を友人としてみていましたが、涙ぐましいほどでした。
もう1人は、「私は糖尿病が好きではないから、糖尿病のことなんか知りたくない。何か起きたら、病院で何とかしてくれるからこのままでいい。」と断言して、何一つ努力をしない、投げやりな毎日を選択しました。
そのとき私は、糖尿病と自分の人生に投げやりな彼女の態度に内心、憤りを覚えました。「糖尿病をなめていたら、いずれはあなた自身が困るんだよ。」とつぶやいていました。彼女はすでに、私の言葉などに傾けるべき耳を持ってはいませんでした。
今その彼女は、残念ながら透析によって命を長らえています。
以上は私の実際の経験からお話しいたしました。確かに糖尿病と診断された日から、それ以前の生活と全く縁を切って、糖尿病と正面から向き合う生活にすぐに向き合う生活に切り替えなさいと、言われても大変ですよね。
でも、皆さん、よく考えてみて下さい。合併症が進んでいるから「自由」を束縛される生活と、自分がある程度「自由」をコントロールできるときに、ちょっと小さな荷物を背負って過ごす生活と、どちらが大変だと思いますか?
このいずれを選択するかは、あなたの自由ですが、二者択一の岐路に立たされたときに、私が出会った糖尿病の友人の話を、ぜひ思い出して下さい。
さかえ/11月号(28頁~)より
糖尿病なんでもわかる健康誌
さかえ
(社)日本糖尿病協会・編集医師薬出版(株)より
定価(500円+税)にて出版されています。
当センター外来待合室にも、おいてあります。是非、一度手に取ってみて下さい。 |